アップルの「Web Eraser」とGoogleの広告ブロック対策について考えると、興味深い戦略と市場動向が見えてきます。
アップルの「Web Eraser」
アップルは以前、「Web Eraser」というSafariに広告ブロック機能を組み込む計画を立てていたと言われています。これは、ユーザーのブラウジング体験を向上させるために広告を削減し、よりクリーンで高速なインターネット体験を提供することを目的としていました。
米Appleは2024年6月10日、開発者会議「WWDC24」を開き、iPhoneやiPadなどに生成AIの機能を加える「Apple Intelligence（アップルインテリジェンス）」を発表した。その会期前に、ちょっとした事件があった。新機能のさまざまな臆測が流れる中、Apple独自の広告ブロッカー「Web Eraser」が登場するとの噂が広がり、世界のネット広告業界を震撼（しんかん）させた。
アップル、幻となったSafariの広告ブロック機能「Web Eraser」 業界が騒然 日経クロストレンド
しかし、この機能は実現されませんでした。いくつかの理由が考えられます：
- 広告収入の影響：広告は多くのウェブサイトの主要な収入源です。アップルがこの機能を実装すると、ウェブサイト運営者からの反発が予想されました。特にニュースサイトやフリーミアムモデルのサービスでは、広告収入が重要な役割を果たしているため、この機能はビジネスモデルに直接的な打撃を与える可能性がありました。
- 広告業界との関係：アップルは広告業界とも関係を持っています。広告ブロック機能は広告業界全体に対してネガティブな影響を与えるため、業界との関係が悪化するリスクがありました。
- 規制と競争法：広告ブロック機能は、競争法や反トラスト法に関する懸念を引き起こす可能性があります。特定の広告プラットフォームをターゲットにしたり、不当な市場支配をしていると見なされるリスクがあるため、慎重な対応が必要でした。
Googleの広告ブロック対策
一方、Googleは広告業界の主要プレーヤーであり、自社の広告プラットフォームからの収益が大きな割合を占めています。したがって、Googleは広告ブロックに対する対策を積極的に講じています。
- アドブロッカーの対策：GoogleはChromeブラウザで広告ブロック機能を提供していますが、これは「不良広告」に対するものに限定されています。不良広告とは、ポップアップ広告、オートプレイ動画、過剰な広告量などユーザー体験を著しく損なう広告のことです。このような広告をブロックすることで、ユーザー体験を向上させつつ、広告自体の価値を維持する戦略を取っています。
- 収益分配モデル：Googleはパートナーサイトに対して広告収入の一部を分配するモデルを採用しています。これにより、広告を許容する動機をサイト運営者に与え、広告ブロックの普及を抑制しています。
- 広告標準の設定：Googleは「Better Ads Standards」に基づいた広告の品質基準を設定し、これを遵守する広告のみを許可するようにしています。この基準は、ユーザー体験を損なわない広告を促進するものであり、広告ブロッカーの利用を減少させる効果があります。
結論
アップルの「Web Eraser」は、ユーザーにとっては魅力的な機能ですが、実装するには多くのハードルがありました。広告収入に依存するウェブサイトへの影響や、広告業界との関係、規制面での懸念がその実現を阻んだと考えられます。
一方、Googleは広告業界において支配的な立場を維持しつつ、ユーザー体験を向上させるための広告ブロック対策を進めています。これにより、広告の質を改善しつつ、広告収益を確保するというバランスを取る戦略を取っています。
両社のアプローチはそれぞれ異なるものの、ユーザー体験の向上と収益確保という共通の課題に取り組んでいる点で共通しています。