人工知能(AI)技術の急速な発展に伴い、大手IT企業が直面している新たな課題が浮き彫りになっています。それは、AIの開発と運用に必要な膨大な電力の確保です。Google、Amazon、Oracleをはじめとする企業が、この課題に対してどのようなアプローチを取っているのか、最新の動向を交えて詳しく見ていきましょう。
データセンターの電力需要急増:IEAの予測
国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、データセンターや人工知能(AI)などによる電力消費が、2026年までに倍増する可能性があります。2023年のデータセンターによる電力消費量4,600億kWh(推定)から、2026年には1兆kWh以上に達すると予測されています。これは日本の年間電力消費量に匹敵する規模です。
この急増する電力需要に対応するため、大手テック企業は様々な戦略を展開しています:
- 原子力発電の活用:アマゾンやマイクロソフトの例にみられるように、安定的で大規模な電力供給源として原子力発電所との連携を強化しています。
- 再生可能エネルギーへの投資:太陽光発電や風力発電プロジェクトへの大規模な投資を継続しています。
- エネルギー効率の改善:データセンターの冷却技術の革新や、AIアルゴリズムの最適化によるエネルギー消費の削減に取り組んでいます。
- 小型モジュール炉(SMR)への関心:グーグルのカイロス・パワーとの契約や、ホスティングプロバイダーのスタンダードパワー社によるニュースケール・パワー社のSMR導入計画など、次世代の原子力技術にも注目が集まっています。
Amazonの大胆な動き:原子力発電所直結のデータセンター買収
Amazon Web Services(AWS)は、原子力発電所から直接電力供給を受けるデータセンターを買収しました。電力会社タレン・エナジー社から、ペンシルベニア州北東部にあるキュムラス・データセンター・キャンパスを6億5,000万ドル(約960億円)で取得しています。
このデータセンターは、隣接するサスケハナ原子力発電所から直接電力供給を受ける全米初の施設です。AWSは今後、同キャンパスを96万kW規模のデータセンターに拡張する計画で、タレン社は10年間の電力購入契約(PPA)を通じて、サスケハナ発電所からカーボンフリーの電力をデータセンターに直接供給します。
マイクロソフトも原子力に注目:コンステレーション・エナジーとの契約
マイクロソフトも原子力発電に注目しています。2023年6月、マイクロソフトは電力会社のコンステレーション・エナジー社と、データセンター向けに原子力由来の電力供給契約を締結しました。
米スリーマイル原発再稼働へコンステレーションは発電所の改修に約16億ドル投じる予定で、施設は28年までに稼働する見込みです。マイクロソフトは再稼働した同原発から20年間にわたり電力供給を受けるとのことです。
Googleの小型原子炉計画:カイロス・パワーとの提携
Googleも、小型モジュール炉(SMR)を建設する新興企業カイロス・パワーと電力の購入契約を結びました。このプロジェクトでは、500メガワットの電力を供給する予定で、2030年から35年の間に電力供給を開始する計画です。
Googleのエネルギー・気候担当シニアディレクター、マイケル・テレル氏は、「われわれは正味の新たなクリーンエネルギーを求めている。既存のクリーンエネルギーの転用は考えていない」と述べ、環境への配慮と持続可能性を重視する姿勢を示しています。
Oracleの野心的計画:13万台のGPUとデータセンター2,000棟
Oracleも驚くべき規模のAI基盤構築計画を発表しています。同社は、131,072台のNVIDIA Blackwell GPUを使用した「ゼタスケール」スーパークラスターの構築を予定しています。
さらに、Oracleは現在の160棟から、なんと2,000棟ものデータセンターを建設する計画を明らかにしました。これらのデータセンターのうち少なくとも1棟は「ギガワット」級の電力を消費し、3基の小型原子炉(SMR)で電力を供給する計画があるそうです。
AIモデル開発コストの高騰と今後の展望
Oracleは、ChatGPTやGoogle Geminiのような基礎モデルを一から開発するコストが、今後4~5年で1,000億ドル(約14兆5,000億円)に達すると予測しています。この巨額の投資は、一握りの大企業と一部の国家のみが可能な規模です。
このコスト高騰を背景に、今後のAI関連支出の主な成長分野が「推論」プロセスになると見られています。つまり、既存のモデルを活用して新しいタスクに適用する技術に注目が集まると予測されています。
まとめ:日本企業への影響と今後の展望
大手IT企業のAIチップ向け電力確保への取り組みは、従来の再生可能エネルギーへの投資だけでなく、原子力発電の活用という新たな局面を迎えています。この動きは、AIの発展が環境に与える影響を最小限に抑えつつ、安定的かつ大規模な電力供給を確保するという課題に対する解決策の一つとして注目されています。
日本企業にとっても、この動向は無視できないものです。AI開発競争に参加するためには、膨大な電力を確保する必要があります。日本国内では原子力発電所の再稼働や新設が困難な状況にあるため、海外でのデータセンター開設や、海外企業とのパートナーシップ締結などが重要になってくるでしょう。
また、エネルギー効率の高いAIチップの開発や、省エネ技術の革新など、日本の得意分野でのイノベーションも求められます。さらに、政府レベルでのエネルギー政策の見直しや、国際的な電力インフラ整備への参画なども検討する必要があるかもしれません。
AIの未来は、技術的な進歩だけでなく、それを支えるインフラストラクチャーの持続可能性と安定性にも大きく依存しています。日本企業も、この世界的なAIインフラ構築競争にどのように参画し、あるいは対応していくのか、真剣に検討すべき時期に来ているのです。