AMDは2025年2月26日、AM4ソケット対応の新APU(Accelerated Processing Unit)「Ryzen 5005Gシリーズ」を発表しました。Zen 3アーキテクチャを採用し、最大8コア/16スレッドを搭載する同シリーズは、低価格帯のPC市場に向けて設計されています。AM4プラットフォームは2017年に登場してから8年が経過しましたが、AMDは「まだ需要が残っている」と判断し、既存ユーザーや予算重視の消費者向けに新たな選択肢を提供します。
AM4プラットフォームの「最後の光」か?Ryzen 5005Gの位置付け
Ryzen 5005Gシリーズは、Ryzen 3/5/7の各クラスに2モデルずつ展開され、合計6つのSKUがラインアップされます。最大の特徴は、「G」と「GE」の2種類のTDPバリエーションを用意した点です。
- Gモデル:65W TDP(従来のRyzen 5000Gシリーズと同等)
- GEモデル:35W TDP(省電力設計で小型PCや静音システム向け)
コア数やスレッド数、統合GPU(Vegaグラフィックス)のスペックは同一ですが、GEモデルはベースクロックが低く設定されています。例えば、最上位モデルの「Ryzen 7 5705G」は8コア/16スレッドを搭載し、65W TDPで動作。一方、「Ryzen 7 5705GE」は同じコア構成ながら35W TDPに抑えられています。
既存モデルとの違いは?「Ryzen 5005G」の実体
公式スペック表によると、Ryzen 5005Gシリーズは2022年発売のRyzen 5000Gシリーズとほぼ同一の設計です。AMDは「ヒートシンク付属の有無が主な違い」と説明していますが、具体的な変更点は未公表。技術系メディア『Tom’s Hardware』によれば、製造プロセスの微調整によるコスト削減が主な目的と推測されています。
主な仕様比較(Ryzen 7 5700G vs 5705G)
項目 | Ryzen 7 5700G | Ryzen 7 5705G |
---|---|---|
コア/スレッド | 8C/16T | 8C/16T |
ベースクロック | 3.8GHz | 3.8GHz |
ブーストクロック | 4.6GHz | 4.6GHz |
TDP | 65W | 65W |
iGPU | Vega 8(2.0GHz) | Vega 8(2.0GHz) |
価格(発売時) | $359(約53,850円) | 未公表(推定$250~/約37,500円~) |
AMD Ryzen 5005G シリーズ
CPU | コア/スレッド | ベース/ブーストクロック | iGPU | TDP |
---|---|---|---|---|
AMD Ryzen 7 5705G | 8/16 | 3.8/4.2 GHz | Vega 8 | 65W |
AMD Ryzen 7 5705GE | 8/16 | 3.2/4.2 GHz | Vega 8 | 35W |
AMD Ryzen 5 5605G | 6/12 | 3.9/4.4 GHz | Vega 7 | 65W |
AMD Ryzen 5 5605GE | 6/12 | 3.4/4.4 GHz | Vega 7 | 35W |
AMD Ryzen 3 5305G | 4/8 | 4.0/4.2 GHz | Vega 6 | 65W |
AMD Ryzen 3 5305GE | 4/8 | 3.6/4.2 GHz | Vega 6 | 35W |
誰に向けた製品?Ryzen 5005Gの活用シーン
AMDはRyzen 5005Gシリーズを「高グラフィック性能を必要としない基本用途」向けと位置付けています。具体的な活用例は以下の通りです。
1. オフィス/ホームユースPC
- Webブラウジング
- 動画視聴(4K解像度まで対応)
- 軽量なクリエイティブ作業(写真編集など)
2. エントリーゲーミングPC
- eSportsタイトル(『League of Legends』『Valorant』)
- インディーゲーム(『Stardew Valley』『Hades』)
- 解像度は1080p/低設定が目安
3. 省電力/コンパクトシステム
- ホームサーバー
- デジタルサイネージ
- 静音デスクトップ
ただし、統合GPUの性能はVegaアーキテクチャの限界から、最新のGTX 1650やARC A380などのエントリーGPUに劣ります。3Aタイトル(『Cyberpunk 2077』など)のプレイには不向きです。
価格戦略と市場への影響
Ryzen 5005Gシリーズの最大の魅力は、AM4マザーボードとの互換性です。A520/B450/B550チップセットを採用する既存のマザーボードが数多く流通しており、日本では新品で7,000円~、中古市場では3,000円台から購入可能です。
AMDが想定する「$500(約75,000円)未満のPC構築」を実現するためには、以下のような構成が考えられます。
想定システム例(Ryzen 5 5605G使用)
- CPU:Ryzen 5 5605G(推定30,000円)
- マザーボード:A520チップセット(7,000円)
- メモリ:DDR4-3200 16GB(6,000円)
- SSD:NVMe 500GB(5,000円)
- 電源:450W 80+ブロンズ(4,000円)
- ケース:ミドルタワー(3,000円)
- 合計:約55,000円
既にRyzen 8000Gシリーズ(AM5プラットフォーム)が発売されている中で、5005Gシリーズは「AM4の寿命を延ばす過渡期の選択肢」と言えます。日本のPC DIY市場では、中古パーツを活用した超低価格ビルドが人気であり、Ryzen 5005Gはその需要に応える存在となりそうです。
現在Amazonで組めるRyzen 5 5600GTシステム
現在AmazonでRyzen 5 5600GTを採用したシステムは約50,000円で組めます。
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懸念点と競合製品
Ryzen 5005Gシリーズの主な競合は、以下の2つです。
- Intel Core i3-14100(13,400円~)
- 4コア/8スレッド
- UHD Graphics 730(性能はVega 7の約70%)
- 消費電力58W
- Ryzen 5 8600G(43,800円~)
- AM5プラットフォーム
- RDNA 3アーキテクチャのRadeon 760M搭載
- PCIe 5.0対応
AMDが公表していない発売時期と価格が最大の不透明要素です。もしRyzen 5 5605Gが25,000円前後で販売されれば、Intel陣営への対抗策として有効ですが、30,000円を超える場合はAM5プラットフォームへの移行を促す結果になる可能性もあります。
まとめ:AM4の「終わりなき物語」は続く
Ryzen 5005Gシリーズの登場は、AM4プラットフォームの驚異的な長寿を物語っています。8年というCPUソケットの寿命は業界でも異例であり、その背景には「A520/B550マザーボードの在庫処理」「新興国市場での需要持続」といった事情が推測されます。
日本市場では、中古パーツとの組み合わせで5万円台のPCを組める点が最大のメリットです。一方で、AM5やIntel LGA1851プラットフォームへの移行を検討しているユーザーには物足りないスペックと言えるでしょう。AMDが公式に「AM4の最終章」を示すまで、このプラットフォームの進化はまだ続きそうです。